東京高等裁判所 平成9年(行ケ)140号 判決 1998年5月19日
東京都品川区西五反田7丁目25番5号
日本生命五反田トレードセンタービル3階
原告
エルベックス ビデオ株式会社
代表者代表取締役
ディヴィド・エルババウム
訴訟代理人弁護士
山田勝重
同
山田克己
同
山田博重
同弁理士
山田智重
京都府京都市山科区北花山大林町60番地の1
被告
竹中エンジニアリング株式会社
(旧商号 竹中エンジニアリング工業株式会社)
代表者代表取締役
竹中紳策
訴訟代理人弁理士
武石靖彦
同
村田紀子
同弁護士
山口義治
主文
特許庁が平成5年審判第11760号事件について
平成9年3月25日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨の判決
2 被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
被告は、意匠に係る物品を「監視用ビデオカメラ」とする登録第862434号意匠(平成2年2月28日出願、平成4年12月10日設定登録。以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。
原告は、平成5年6月8日、本件意匠の登録を無効にすることについて審判を請求し、平成5年審判第11760号事件として審理された結果、平成9年3月25日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年5月14日原告に送達された。
2 審決の理由の要点
(1) 本件意匠の出願日、設定登録日及び意匠に係る物品は、前項記載のとおりであって、形態は別紙に示すとおりである。
(2) 請求人(原告)は、本件意匠は、その出願前に請求人の製造、販売に係る甲第23号証ないし甲第25号証で示す「監視用ビデオカメラ」の意匠(以下「引用意匠」という。)と類似するものであり、意匠法3条1項3号に規定する意匠に該当するから、その登録は無効とされるべきものであると主張する。
(3)<1> 甲第23号証の証拠力について
甲第23号証は、製造元、東京都品川区西五反田7-25-5 日本生命五反田トレードセンタービル3階所在のエルベックス(ジャパン)株式会社、及び総販売元、東京都港区高輪4-21-11所在の株式会社アイデン発行のカタログの写しであるが、当該カタログには発行日等の記載がなく、また、このカタログの記載全体からみても、本件意匠の出願前に頒布されたものと認めるに足りる証拠がない。したがって、甲第23号証を本件意匠の出願前に頒布された刊行物として採用することができない。
<2> 甲第24号証の証拠力について
甲第24号証は、広島市南区宇品東2-4-34所在の株式会社熊平製作所発行のカタログ写しであるが、当該カタログの裏表紙の右下端部に
<3> 甲第25号証の証拠力について
甲第25号証は、クマヒラ総合カタログの写しであるが、当該カタログには発行日等の記載がなく、また、このカタログの記載全体からみても、本件意匠の出願前に頒布されたものと認めるに足りる証拠がない。したがって、甲第25号証を本件意匠の出願前に頒布された刊行物として採用することができない。
以上のとおり、請求人(原告)が提出した甲第23号証ないし甲第25号証は、いずれも発行日が不明であり、本件意匠の出願前に頒布された刊行物と認められないので、甲第23号証ないし甲第25号証が本件意匠の出願前に頒布された刊行物であることを前提に、本件意匠が甲第23号証ないし甲第25号証に記載された引用意匠に類似する旨の請求人の主張は、当を得ないものといわざるを得ない。
(4) 以上のとおり、請求人が主張する引用意匠が所載されている甲第23号証ないし甲第25号証が、本件意匠の出願前に頒布された刊行物と認められないので、本件意匠は、意匠法3条1項3号に規定する意匠に該当せず、その意匠登録を無効とすることができない。
3 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点(1)及び(2)は認める。同(3)のうち、甲第23号証ないし甲第25号証が審決認定のカタログの写しであること、上記各カタログには発行日の記載がないことは認めるが、その余は争う。同(4)は争う。
甲第23号証ないし甲第25号証について、本件意匠の出願前に頒布された刊行物とは認められないとした審決の認定、判断は誤りであり、その誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
甲第23号証ないし甲第25号証が本件意匠の出願前に頒布された刊行物であることは、甲第23号証ないし甲第25号証記載の「監視用ビデオカメラ」が平成元年7月に発売されたものであること(甲第26号証ないし甲第28号証)、株式会社電波新聞社発行の雑誌「Journal of the Electronics Industry1989年7月号」(甲第10号証)、同新聞社発行の「電波新聞 平成2年1月29日号」(甲第43号証)の各広告記事及び平成元年暮れに発行された株式会社アイデンの1990~1991年版総合カタログ(甲第44号証)に、甲第23号証ないし甲第25号証記載の「監視用ビデオカメラ」が掲載されていること、有限会社スタジオダック(印刷業者)はエルベックスジャパン株式会社に対し、平成元年2月28日に甲第23号証のカタログの印刷代を請求していること(甲第45号証)等から明らかである。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1及び2は認める。同3は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。
2 反論
審判手続において提出された証拠を精査しても、甲第23号証ないし甲第25号証の刊行物が本件意匠の出願前に頒布されたものと認定できるものはない。すなわち、甲第10号証は、電波新聞社発行の月刊誌が「1989年(平成元年)7月」に発行されたことが、甲第26号証ないし甲第28号証の証明書は、ドーム型ビデオカメラが周知なデザインとして市場で特徴づけられていることが、それぞれ記載されているにとどまり、甲第23号証ないし甲第25号証の刊行物が本件意匠の出願前に頒布された事実を証明し得る記載はどこにもない。
また、審判手続において取り調べられなかった証拠は本件訴訟において提出することができないから、本件訴訟において新たに提出された甲第43号証ないし甲第47号証を、甲第23号証ないし甲第25号証の刊行物が本件意匠の出願前に頒布されたことの認定資料とすることはできない。
第4 証拠
本件記録中の書証目録記載のとおりである。
理由
1 請求の原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。
(1) 甲第23号証ないし甲第25号証が審決認定のカタログの写しであること、上記各カタログには発行日の記載がないことは、当事者間に争いがない。
(2) 成立に争いのない甲第43号証、「発行日」を除く部分の成立については争いがなく、発行日は、表紙左下に「JULY1989」の記載があることから1989年(平成元年)7月と認められる甲第10号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第26号証ないし甲第28号証、甲第44号証、甲第45号証及び弁論の全趣旨によれば、エルベックスジャパン株式会社(原告と同一系列に属する会社)の製造に係る甲第23号証ないし甲第25号証記載の監視用ビデオカメラ(ドーム型ビデオカメラ)は平成元年7月頃に発売されたものであること、株式会社電波新聞社発行の雑誌「Journal of the Electronics Industry1989年7月号」(甲第10号証)、同新聞社発行の「電波新聞 平成2年1月29日号」(甲第43号証)の各広告記事及び株式会社アイデン発行の「EYE坊 総合カタログ 1990~1991年版」(甲第44号証)には、甲第23号証ないし甲第25号証記載の監視用ビデオカメラが掲載されていること、有限会社スタジオダック(印刷業者)はエルベックスジャパン株式会社に対し、平成元年2月28日に甲第23号証のカタログの印刷代を請求していることが認められる。
上記認定の各事実を総合すると、甲第23号証ないし甲第25号証の刊行物は、本件意匠の出願日である平成2年2月28日より前に頒布されたものと推認され、これを覆すに足りる証拠はない。
なお、被告は、審判手続において取り調べられなかった証拠を本件訴訟において提出することはできないとして、本件訴訟において新たに提出された甲第43号証ないし甲第47号証を、甲第23号証ないし甲第25号証の刊行物が本件意匠の出願前に頒布されたことの認定資料とすることはできない旨主張するが、既に審判手続において提出された甲第23号証ないし甲第25号証の刊行物が意匠法3条1項2号所定の「意匠登録出願前に頒布された刊行物」であるか否かを認定するために必要な資料を、取消訴訟の段階で追加的に提出することを妨げるべき事由は存しないから、上記主張は採用することができない。
(3) 以上のとおりであって、甲第23号証ないし甲第25号証は本件意匠の出願前に頒布された刊行物と認められないとした審決の認定、判断は誤りであり、原告主張の取消事由は理由がある。
3 よって、原告の本訴請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成10年4月14日)
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
別紙 本件登録意匠
意匠に係る物品監視用ビデオカメラ
<省略>